2025年12月2日,WordPress 6.9「Gene」が正式リリースされた。2025年としては6.8に続く2つ目であり,年内最後のメジャーアップデートになる。
今回のキーワードは「コラボレーション」と「編集体験の改善」,そして「将来のAI連携に備えた土台作り」だと感じている。
この記事では,Paso-Lab.のような個人ブログ/小規模サイト運営者の目線で,6.9のポイントを整理してみる。
WordPress 6.9はどんな位置付けのリリースか
6.9は,Gutenbergプロジェクト全体でいうと「Phase 3(コラボレーション)」のスタート地点となるリリースであると位置付けられている。
6.8までで,ブロックエディターとサイトエディターの基本はほぼ出揃った。6.9ではそこに「複数人でコンテンツを作る」ための仕組みが加わり,管理画面全体の使い勝手もかなり磨かれている。
技術的には,以下のようなテーマが柱になっている。
- ブロック単位のコメント「Notes」による協働編集
- サイトエディターとナビゲーションまわりのユーザー体験向上
- アコーディオンやMathなど,新しいブロックの追加
- コマンドパレットの全体展開
- Abilities APIなど,将来のAI連携を見据えた基盤
- パフォーマンス・アクセシビリティ・PHP 8.5対応の改善
個人運営のサイトでも恩恵がある部分は多いので,「チーム用機能だから自分には関係ない」と切り捨てるのは少しもったいない。
ブロックレベルの「Notes」でエディタ内にメモ書き文化を
6.9の目玉機能の一つが,ブロックごとにコメントを付けられる「Notes」機能だ。
- 記事中の任意のブロックを選び,そこにコメント(ノート)を付けられる
- コメントはスレッド形式でやり取りできる
- 解決済み/再オープンといったステータス管理も可能
- 新しいノートが付いたときにはメール通知で気付けるようになっている
複数人で回しているメディアでは,修正依頼や編集メモをチャットやメールなど,WordPressの外でやり取りしていたケースが多い。Notesを使うと,それを記事の中に閉じ込められるイメージだ。
個人ブログでも使い道はある。たとえば私は次のような運用をイメージしている。
- 下書き記事の中で「ここにグラフを入れる」「後でスクショを差し替える」といった自分用TODOを書く
- リライト候補の箇所に「次のメジャーバージョンで再チェック」などのメモを残しておく
外部のタスク管理ツールに書くより,記事のその場所に直接メモできるのは地味に便利だ。
サイトエディターとコマンドパレットの強化
サイトエディターの操作感がようやく安定してきた
6.9では,サイトエディター(フルサイト編集)のUIがさらに整理されている。メニュー構造が分かりやすくなり,テンプレートやテンプレートパーツへのアクセスも以前よりスムーズになった。
- 読み込み速度が改善され,待ち時間が減った
- テンプレート/パターンの切り替えが分かりやすくなった
- ブロックのドラッグ&ドロップ操作の挙動も改善されている
フルサイト編集は「触るたびにUIが変わる」印象が強かったが,6.9あたりでだいぶ落ち着いてきた,というのが実感だ。
コマンドパレットがダッシュボード全体に広がる
Ctrl+K(Macは⌘+K)で呼び出すコマンドパレットは,これまでは主にブロックエディター内の検索として機能していた。6.9では,このコマンドパレットがダッシュボード全体に広がり,管理画面のさまざまな場所へジャンプできるようになっている。
- 投稿や固定ページの一覧
- 外観まわりの設定
- プラグイン画面など
キーボードショートカットに慣れている人にとっては,WordPressが「ようやく現代的な管理画面の仲間入りを果たした」と感じられるポイントだと思う。
新しいブロックたち:Accordion,Terms Query,Mathほか
6.9では,ブロックそのものもいくつか追加されている。
代表的なものを挙げる。
- アコーディオンブロック
- Q&AやFAQでよく見かける「クリックで開閉する」ブロック
- プラグインに頼らなくても標準で実現できるようになる
- Terms Queryブロック
- カテゴリやタグごとの投稿数をリスト表示できる
- カテゴリ一覧ページの「このカテゴリには何件記事があるか」を自動表示する用途に便利
- Time to Read / Word Countブロック
- 記事の想定読了時間や文字数を自動表示する
- 長文記事が多いブログでは,読者への親切設計に使える
- Mathブロック
- 数式をきれいに表示できるブロック
- LaTeX風の記法で,複雑な数式も画像にしなくて済む
Paso-Lab.的には,たとえば「サンプリング周波数の違いを解説する記事」でMathブロックを使えば,波形や式をきれいに載せられる。教育系や技術系のコンテンツを扱う人にはかなり嬉しい追加だ。
ブロックの細かいけれど効く改善
6.9では,「目立たないが効く」タイプの改善も多い。
- ブロックを非表示にする「Hide blocks」機能
- CSSでdisplay:noneを書くのではなく,ブロック側で表示/非表示を切り替えられる
- 一時的に消したいセクションをコメントアウト感覚で隠せる
- ドラッグ&ドロップのUX改善
- 何をどこに動かしているかが視覚的に分かりやすくなった
- 長いページでもブロックの入れ替えがしやすい
- ボタンブロックのHTML要素見直し
- アクセシビリティと意味論的なマークアップの観点から,HTML構造が調整されている
- コンテナ内のブロックアクセス制御
- グループブロックやカラム内で,どのブロックを編集できるか細かく制御しやすくなった
こうした積み重ねが,日常的な編集ストレスをじわじわ減らしてくれる。
パフォーマンスとアクセシビリティの改善
公式のフィールドガイドによると,6.9ではアクセシビリティ改善だけで10件の機能追加と23件の不具合修正が入っている。スクリーンリーダー向けの通知,フォーカス管理,HTML構造の見直しなど,細かい部分がかなり手当てされている。
パフォーマンス面では,次のような改善が報告されている。
- ブラウザの戻る/進むを使ったときの即時ナビゲーション
- スタイルシートの読み込み最適化
- キャッシュ機構の改善
- データロードの高速化
Core Web Vitalsを気にしているサイトほど,こうした改善の影響は大きい。劇的な変化ではないかもしれないが,「どうせアップデートするなら速くなっていてほしい」という願いにはきっちり応えてくれている印象だ。
開発者向けアップデート:Abilities APIとPHP 8.5対応
Abilities API:AI時代を見据えた「機能のカタログ」
6.9で導入されたAbilities APIは,WordPress本体・テーマ・プラグインが提供する機能を,機械が扱いやすい形で一覧化するための仕組みだ。
- PHPやREST APIから参照できる
- 「このサイトにはどんな操作や機能があるか」を一元管理できる
- 将来的にはAIモデルがこの情報を読み取り,「記事を下書きしたら自動でNotesを付ける」などの統合もやりやすくなる
推測ではあるが,このAPIが育っていくと「WordPressにAIアシスタントを生やす」系のソリューションの精度と柔軟性がかなり変わってくるはずだ。
PHP 8.5へのβ対応
6.9ではPHP 8.5に対する「ベータサポート」が追加されており,既知の互換性問題や警告に対応したとされている。一方で,従来どおりPHP 7.2以降もサポート対象に含まれている。
- サーバ側でPHP 8系への移行を検討している場合,6.9以降のほうが安心して試せる
- とはいえ古いプラグインやテーマは,PHP 8系でエラーになる可能性は依然としてある
このあたりは,テスト環境やステージングサイトで事前検証してから本番に適用するのが安全だ。
アップデート前後に見直したいチェックリスト
6.9へのアップデートでトラブルを避けるために,基本的なところを整理しておく。
- サーバのPHPバージョンを確認
- 7.4以前を使っている場合は,いずれにせよ更新を検討したほうがよい
- 8.0〜8.2あたりが現時点では現実的な落としどころになりやすい
- 使用中のテーマ・プラグインが6.9対応を明言しているかチェック
- 特にページビルダー系やセキュリティプラグインは要注意
- 必ずバックアップを取る
- データベースとwp-content(テーマ・プラグイン・アップロードファイル)の両方
- 可能なら,ステージング環境で先に6.9を適用してみる
- 自動更新の設定を見直す
- 個人サイトなら「マイナーアップデートのみ自動」にしておき,メジャーは手動で様子を見てから適用する運用もありだと思う
- アップデート後にざっと動作確認
- 投稿編集画面で保存やプレビューが正常か
- トップページと主要なランディングページが表示崩れしていないか
- フォーム送信や検索機能など,重要な動作を一通り試す
ここまでやっておけば,「アップデートしたら真っ白になった」という最悪の事態はかなり避けやすくなる。
個人サイト目線で「ここだけ触っておけばOK」というポイント
最後に,Paso-Lab.のような個人運営サイトで,まず押さえておきたいポイントをまとめる。
- エディタ内メモとしてNotesを使ってみる
- 自分向けTODOでも,未来の自分への伝言として役立つ
- 長文記事には読了時間ブロックを追加する
- 「読むのに何分かかるか」を示すだけで,離脱率が少し下がるケースもある
- アコーディオンブロックでFAQや補足情報を整理する
- 画面をすっきりさせつつ情報量を確保できる
- コマンドパレットを日常的に使ってみる
- 投稿一覧や固定ページへの移動が早くなり,編集フローが軽くなる
推測だが,これらを丁寧に使いこなしていくと,「1記事あたりの制作時間」,「1回の修正にかかるストレス」はじわじわと減っていき,結果として更新頻度の維持にも効いてくるはずだ。
まとめ
6.9は「劇的な見た目の変化」は少ないものの,編集体験やパフォーマンスといった地味な部分がかなり磨かれたアップデートだ。アップデートのタイミングを見計らいつつ,少しずつ新機能を試していきたい。

